流浪の月 凪良ゆう著(2020年本屋大賞)

実に面白かった。

最初の数ページを読んだだけで引き込まれていく。流石、本屋大賞受賞作と思いました。

 

主人公の「彼」と「彼女」は、世間からは誘拐事件の犯人と被害者とされていましたが、真実は別にありました。

実際の被害者は、晩御飯はアイスクリームでもOKといった自由過ぎる?育ち方をしていたのに、父親と死別し、母親に捨てられ、おばの家に引き取られた結果、一般買い手の常識にはなじめず、さらに従兄から性的虐待を受けるなど、自分を殺して生きる事を強いられていた少女でした。一方の犯人とされたのは身体的な問題で一人前の男性になれない苦悩を抱えた青年でした。少女からすれば青年は従兄から解放してくれた救世主であり、青年は少女のお陰で抱えていた悩みを明らかにするきっかけとなったので、やはり救世主だったのかもしれません。

 

最近、マスク非着用で飛行機から降ろされるという事件?が続いていたこともあり、常識とか躾とか、いったい何だろう? と考えてしまいました。

 

後半で「真実と事実は違う」という言葉に驚いて、調べてみると興味深い結果を見つけました。

真実も事実も、うそ偽りのないことを指すが、「 事実」とは実際に起こった「客観的な事柄」で常に一つ、「真実」は事実に対する偽りのない解釈=「主観的な事柄」なので複数存在する。

「AがBを殺した」というのは「事実」で、「Aは暴力を振るってくるBを避けようとしたところ、Bが足を滑らせて頭を打打ち死に至った」は「真実」という説明をみつけて納得しました。

青年が少女を自宅に連れ帰り暫く同居していたことは事実ですが、二人の関係性について、いくら少女が何一つ嫌なことをされなかったと説明しても「ストックホルム症候群」という解釈をすることで、世間から理解されることはありませんでした。

 

15年後に青年の努力と偶然に助けられて再び巡り合い生活を共にする状況も、世間からは理解されないものとなっていますが、少女の常識に縛られない考え方によって、物語は豊かになっていると思いました。できれば母親のコメントとして「思う通りに生きていいのよ。荷物は背負わなくていいよ」って言ってほしかったかな。

 

それにしても、直木賞芥川賞があまり面白くないと感じる事が増えているなかで、本屋大賞は読者に寄り添った素敵な賞だと思います。